英語試験の対策コース。あれは本当に意味があるのか。
元審査マネージャーのパートナーはかつて、IELTSの対策コースを「ほとんど詐欺に近い」と思っていたそうです。英語を勉強するより、試験の解き方を覚えることに時間を使う。しかも中国語だけで授業が行われているIELTS対策スクールまで存在すると、彼は話しています。英語を教えているはずなのに、授業は中国語。さすがに笑えない話です。
でもある日、採点室での出来事が、その考えをがらりと変えました。
採点官として見た「試験の本質」
彼はかつて、公式のIELTS試験監督官として働いていた時期があります。試験を管理するだけでなく、一部のセクションの採点も担当していました。採点する側に回って初めてわかることが、思いのほか多かったそうです。
ある日の採点室でのことです。二人の採点官が、同じ問題に対する二つの回答について話し合っていました。
問題はリスニングセクションの穴埋め問題で、「3語で答えなさい」という指示がついていました。問いの内容は「ドアは何色でしたか?」というようなものです。
一人の受験者は「door was red」と書いた。もう一人は「The door was red」と書いた。
ドアが赤だったという事実は、どちらも正解です。でも英語として自然で正確なのは、定冠詞「The」を使った後者です。英語ネイティブなら迷わず後者を選ぶでしょう。
採点の結果は?「3語で答えなさい」という指示通り3語だった「door was red」が正解、4語だった「The door was red」が不正解。
彼はその結果に納得できなかったと言っています。文法的に不完全な答えが正解で、正しい英語が不正解になる。でもこの出来事が、対策コースへの見方を変えました。
試験対策は「英語力の代替」ではなく「英語力の保護」
「door was red」は文法的に不完全です。でも試験のルール上は正解。「The door was red」は正しい英語ですが、試験のルール上は不正解。
これが現実です。
どれだけ英語力があっても、試験のルールを知らなければ、正しい答えを書いたのに不正解になることがある。英語が得意な人ほど、こういう「丁寧すぎるミス」をやらかします。余分な情報を加えてしまう、問いに対して誠実に答えすぎてしまう。試験はそういう「正直さ」には点数をくれません。
対策コースの本当の価値は、英語力を底上げすることではなく、「持っている英語力を正しく得点に変えること」にあります。準備なしで受けて損をするより、ルールを知った上で受ける方が、同じ英語力でも結果が違ってくる。
ちなみに彼自身なら、あの問題にどう答えたか。
「It was red」と書いたそうです。これも3語、文法的に完全、そして最もシンプルな答えです。問いに対して必要最低限で的確に答える。それが試験というゲームの正しい戦い方です。
試験対策との正しい付き合い方
試験対策コースを「英語の勉強の代わり」にするのは間違いです。でも「試験の戦略を学ぶ手段」として使うなら、十分に価値があります。
英語力と試験対策、両方を積み上げた人が最終的に一番有利なのは言うまでもありません。でも試験のルールを知らずに本番に臨むのは、地図なしで知らない街を歩くようなものです。どれだけ足が速くても、目的地にたどり着けない。
まず試験の仕組みを理解する。どんな問題が出て、何語で答えるべきで、何を求められているのかを把握する。その上で英語力を磨く。その順番が、最短距離で結果を出す方法です。
英語試験は「英語力の証明」である以前に、「試験というゲームのルールを理解しているかの証明」でもあります。そのことを頭に入れておくだけで、準備の質がぐっと変わるはずです。

コメント